ひとめぼれ

とても若いころは、異性の外見に惑わされていたものだった。なんせ、中学生では、DavidSylvianだの王道のDavidBowieだのが、音楽性関係なく外見で好きだったのだから軽薄なのだ。

そんな私も大学院生の時、知り合いの影響で市民運動フェミニストムーブメントに首をつっこむようになり、あまり深い考えもなく、勃発した戦争反対の座り込みに参加したときのこと。

アーミーぽいコート(のちに織田裕二が刑事の役で着ていたような)に膝の破れたジーンズの大学生風の男性が、回ってきたマイク(参加者が順番に何か戦争反対の意見を道行く人に向かって述べていた。)で、仕方なくといった風に訥々と話し始めた。

「アメリカに協力して、日本は戦争のための資金を提供すると言っている。そのために消費税が上がるという噂もある。たばこも値上がりするという。そんなことに税金が使われるは嫌だし、高いたばこを吸うのは嫌だからたばこをやめようかとも思ったりもする。かといって、そんなことのためにたばこをやめるのも腹立つなあと思って、座り込みに参加しました。」

 

何を言っているのか、このオトコの人は。とその話しぶりにいらだったというか、はじめは本当になにを言おうとしているのかわからなかった。

ほかの人は「正義の戦争は無い!」とか、「ヒロシマから平和の発信をしよう!」とか「子どもや女性が犠牲になっている。」とか、「いつも苦しむのは民衆だ!」とかアジテーション気味にボルテージは上がって平和と正義のアピールをされていた。宗教家(キリスト教の神父や牧師、シスター、寺院のお坊さん)大学の教授、学生、主婦などいろいろな思想信条立場、老若男女が参加していた。

なのに、この人は自分のたばこの値上がりの話をしている、、、。なんなのだろう?と思ったが、なぜかその語り口は親しみが持てて、その変な学生風の人に興味を持った。

風貌は目がくりっとして眼鏡をかけて、私には「山口智子似」と見えたのだが、外見ではなくその人のコトバに、出会ってすぐに心魅かれたのはこの彼が初めてだった。

 

実はサヨクの最後の後継者のような、信念のある人だったのだが、このように人を煙に巻くようなソフトで不思議な話し方の人には今もって魅かれるものがある。

コトバをぶつけない、相手に考えさせる優しさやユーモアやゆるさが保てる人は本当の大人だと思うし尊敬する。

私自身はまっすぐ過ぎて時に人を傷つけてしまう鋭いコトバも使ってしまうので、わけのわからない論法と柔らかなコトバで人を惹きつけ、なおかつ自分を主張できる人には憧れる。