繁栄と没落

山あいの小さな町に行商の男が辿り着いた。身なりは粗末で、町外れの小さな小屋に住みついた。どこから来たのか誰も素性も知らない男はやがて、あちこちの田圃を買い占めるようになる。金貸しを始めてみるみるその財産を増やす。

大きな屋敷を建て、使用人を何人も使って贅沢な暮らしをするようになる。美しい妻を迎え、娘をもうける。娘は婿をとり何不自由なく暮らしていた。

ところがこの娘は放蕩で淫乱なわがままな性格で、大人しい夫がいながら、学生や村の青年と色事を繰り返し、男遊びにふけるのであった。

娘は結婚していながら、他所の男の子どもを身籠もってしまう。元は素性が知れないとはいえ、今や町の名士となった家の娘が誰の子どもとも知れない赤ちゃんを産むわけにはいかない。秘密で、怪しい薬を手に入れ、堕胎を試みる。しかし出血性ショックで娘は命を落としてしまうのであった。

娘を亡くした当主は妻以外の女の人に生ませた息子を家に引き取り育てる。

そして、ある日、見知らぬ女に手を引かれた女の子がこの家を訪ねて来る。当主が生ませた女の子だと言い置いて、女は去って行く。

仕方なくその女の子を引き取ることにしたが、妻の手前正式な子どもとして育てるわけにいかず、息子の世話をする下女として家に置くことになる。

この一人息子はまた、十九歳で嫁をあてがうが、放蕩はやまず、山陰の温泉で芸者と心中する。列車を仕立てて遺体を連れ帰る。神経を病んでいたのだと言う。

 

一代で財産を成した一家には、もはや血を受け継ぐ者は残されていない。

当主が他所の女に生ませたという下女の少女のみである。この少女にはしかるべき財産を分与されたが、そのほかに財産を貰った血縁の者はやがて町を捨て大阪に出て映画を作るなどして、やはり散財したと言う。

 

小学生の頃、夏休みにラジオ体操をしていたのは、この広い屋敷の庭であった。黒い格子のはまった木戸がおどろおどろしく、門は既に朽ちようとしていた。

不吉な屋敷には、不似合いな朝のラジオ放送が響きわたる。

 

下女として引き取られた少女は美しく成長し、百姓の男と恋に落ちる。百姓の男は、男の子のいない一家の養子で肩身の狭い思いをしながら育った働き者の男であった。美しく薄倖な少女には百姓の仕事は向いておらず、男は随分庇うが、養父はその結婚を認めず、少女は離縁される。お腹には子どもを身籠もっていたのに。

百姓の男には、大柄で健康な新しい嫁がもらわれる。

この愛のない夫婦の第一子、嫡男が私の父、美しい前妻の非嫡出子が私の伯母であった。